2024年5月13日

文責:永住許可取消し反対連絡会

反対声明文全文PDF版はこちらから

2024.05.27 English version of statements follows after Japanese statement 👇

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2024年5月現在、政府は今国会で技能実習制度に代わる新制度「育成就労」を作る一方、「永住許可の取消し」規定を盛り込み、法制化しようとしています。

共生社会に本当に必要な制度とは

政府は従来の「技能実習制度」の改善として「育成就労制度」を新設するとしていますが、以下にあげる主要な2点から、私たちはこの法案は改悪であると考えています。(注1)

  1. 転籍や家族帯同の制限など労働者の権利侵害が維持されています。
  2. 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(注2)や外国人との共生社会の実現のための有識者会議(注3)のこれまでの審議において、一切議題として議論されていなかった「永住者の永住許可取消し」という大きな変更が密かに追加されました。

これらは、技能実習生として訪れる人々だけではなく、永住者も労働力として利用し、できる限り定住化させたくないという差別の表れだと思います。政府・与党は、「技能実習制度」の改善に伴い永住者が増えると予想し、「永住許可」の取消し制度で永住制度を「適正化する」と説明しています。しかし、すでに私たちは永住者をはじめとする外国にルーツをもつ市民と共生しています。本来はこの機会に、今まで先延ばしにしてきた投票する権利、地域の意思決定に関わる権利である「参政権(注4)」の保障、そして社会参画・社会統合を保障する制度ないしは、それを司る独立機関の新設等を議論するべきではないでしょうか。

直球のレイシズムと優生思想

国籍、永住権(注5)、各種在留資格などの法的地位は人権・社会保障にアクセスする最も必要不可欠な手段です。本来、人権を保障するための在留資格を、差別を強化するために、権力者の一存で私物化するのは許されません。今回の法改悪は、税金、社会保障費を「故意」に滞納した場合、永住許可の取消しという処遇を課すものです。さらに、この法律に規定する義務である、在留カードの更新・携帯義務などが遵守されなかった場合、1年以内の刑罰での在留資格の取消しが可能になってしまいます。これに対し、移住連、日弁連などの既存の声明においては、日本の生活者として日本国籍の人と同じ処罰を行うべきという批判もなされています。しかしここには、そもそも、2つの問題があります。

  1. 永住許可取消しという処罰は、永住者を狙った直球の差別・レイシズムです。この差別・レイシズムを私たちの社会の前例(=スタンダード)としてしまう状況が作られ、単なる処分に留まらない、差別的な構造を強化するペナルティ以上のものと、私たちは考えています。
  2. 永住者が納税義務を怠ってしまった(果たせなかった場合もあります)ことやその他の義務・法律違反歴によって、権利を制限することは、生産性による差別ー優生思想に根差すものであり、それを強化するものです。

法改悪により起こりうる事態

審議中の法案が成立した場合、次のような事態が懸念されます。

  1. 国籍法において強固な血統主義(注6)の立場をとる日本がこの法案を導入した場合、日本で生まれ育った人たちも永住許可の取消しの対象に含まれてしまいます。これは、この法案の重大な欠陥であり、人権侵害が発生することは、誰の目にも明らかです。そもそも、日本の国籍法において、血統主義にのみ固執し続けること自体に大きな問題があります。
  2. 「故意に公租公課の支払をしないこと」という文言には、生活困窮がきっかけで納税を後回しにしたというようなケースにも当てはまります。差押え、追徴金や延滞税等のペナルティに、永住許可の取消しが加わることで、生活は困難になり、本人やその家族の貧困がさらに強化され、最悪の場合は在留資格の更新も危うい状況に陥ることになります。
  3. 入管法上の義務には、在留カードの携帯義務や更新義務、そして紛失時の再交付申請義務などが含まれていますが、**これが永住の取り消し事由になると、単なるうっかりミスでさえ、永住許可取消しの理由とされかねません。**また、さまざまな理由で諸雑務を苦手とする人たち(発達障害の人、頼る相手がいない人、未成年者、高齢者など)にまで影響があるでしょう。
  4. 1年以下の懲役・禁錮刑による永住許可の取り消しは、更生の機会を奪い取ってしまうことになります。(注7)非行に至る背景に貧困や差別、虐待、いじめなど過酷な環境による影響があることは珍しくありません。在留資格が不安定になると、当事者ががやり直すことがさらに難しくなってしまいます。また、周囲の眼差し・態度の変化によって、同じ社会に生きているのにも関わらず、内外人平等の原則に反した状況において、さらに追い詰められ周縁化されてしまう恐れもあります。(注8)

以上のように、改悪案が成立すれば、社会的・構造的問題は解消されず、外国籍の人たちは社会から疎外され、より厳しい環境に置かれ続けることになります。つまり、生活基盤をさらに不安定にすることで問題を先送りし、問題を再生産することにつながるだけなのです。

参政権を持たない当事者と国会の構造的問題

そもそも、外国籍者をめぐる法律は、きわめて暴力的な決定プロセスで成立してきました。実際に永住者さえ、従来保障されているべき(地方)参政権を行使することはできません。つまり、当事者が投票によって代表者を後押ししたり、代表者となって国会に意思を届けたりするなどの参政権を行使できない状況で、政府・与党は当事者や支援者の意見、ニーズを捻じ曲げ、政府や一部の企業等にとって、都合の良い法案を通そうとしています。意思決定の場から当事者が排除されていることを良いことに、一方的で差別的な法改悪を実施することは許されません。

裏金議員による搾取法案

裏金議員である小泉法務大臣や、自民党総裁でもある岸田首相の答弁では、「税金滞納の永住者を目の当たりにすると、不公平感が生まれ、外国人はダメだ、国を閉じようという世論が巻き起こる」「不当な差別には当たらない」というとんでもない発言がなされました(注9)。今市民が不公平感を感じているのは、自民党が歴史的に繰り返してきた裏金問題とその政治家たちへの軽い処遇です。その矛先を外国籍住民に向けようとして、この法案を議論することは、外国人のスケープゴート化・官製ヘイトそのものです。

この法案に賛成・支持している自民党を構成する政治家の多くは、裏金や脱税を追及されている人たちです。政治資金という名で課税を免れ、裏金を正当化しています。このような政治腐敗を止めるための法整備こそが必要であり、仮にも市民の代表者である政治家に、立場の弱い人に対する何重もの搾取構造を作らせてはいけません。